〜TOKYO〜

真夏の太陽がアスファルトを焦がし
人々の水分をまるで嘲笑するかのように蝕んでいく
地方の人たちから見れば『東京』という
ヒトカタマリの巨大都市は、東京都内はすべて都会だ、
という判断をしてしまうのだろうか
東京にも田舎は存在する
20歳をとうに過ぎた僕は
そんな田舎の小さな新聞販売店に勤めていた

淡々と同じ事を繰り返す日々だった
服は新聞のインクで所々汚れて、そんな汚れが
僕自身をも少しずつ、少しずつだけど、
カ ク ジ ツ に腐らせていった

店の近くにカレー屋さんがあった
新聞屋の従業員の多くはよくそこに通ってカレーを食べた
僕もその例に外れる事はなく、よく通っていた
ここのカレー屋さんは色々な具のトッピングが出来る
僕も色々とトッピングしていたのだがそのトッピングは
いつも同じ物で、そしてしばらくするとそのトッピング自体が
メニューになってて『恒輝スペシャル』などという名前がついた
何故だか少し嬉しくなって、気持ちが一人歩きした日を覚えている

カレー屋のドアが開いて一人の女性がこっちに寄ってきた
『恒輝、早く戻って来いってお父さん言ってるよ』
新聞屋の店長の娘の茜だった
茜とは今付き合っていて、もちろん、店長もこの事は知っていた

『おう、ついでにお前も何か食っていけよ』
僕は茜の方を見ることもなく、カレーをすくいながらそう言った『さっき、ケーキ食べちゃったからいいよ』
茜は僕のとなりで店内にあるテレビを見ながら言った

ここのところ、茜とは少しばかりうまくいってなかった
別にお互いが喧嘩したわけでもないし
もちろん他に好きな人が出来たというわけでもない
俗に言う『倦怠期』という奴なのだろうか…
交わす言葉も付き合い当初に比べたらかなり減っていた
それでも、お互いがお互いを必要としていることには違いなかったのだが…

店に戻ると、機嫌悪そうな顔で店長が僕の方を振り向いた
『おい、金澤の奴見なかったか?』
『いえ、見てませんけど?部屋で寝てるんじゃないです?』
『それが、部屋見てきたらもぬけの殻だったんだよ…荷物も一個残らずなくなってる』
『飛んだ可能性アリってことですかぁ…』
金融業界でもそうらしいが、新聞業界でも逃げたりすることを『飛んだ』と表現する
まぁ、購買読者が逃げる事はあまりないので
従業員が仕事のハードさえゆえに逃げる事を指してしまう

『あいつは頑張れると思ったのにな…』
店長はボソッと呟くような小さい声で言った
『もう少し待ってみましょう、何か事情があったのかもしれないから』
そう言ったのは茜だった
彼女のこういう何気なく人を信頼してる姿は僕からすれば羨ましい限りだった
だけど、同時にそれは僕が敬遠している部分でもあった
『待つ必要なんかない、あいつはもう戻ってこないよ』
僕はわざと大きな声で言い放った
『何でそんなこと言うの?わからないじゃない!』
茜も僕に突っかかるように大声を出した
『逃げるような奴に配達なんて任せられないよ…今日の夕刊分は僕が回りますから』
僕は店長にそういうと、店を出て自分の部屋に戻った
『ちょ、ちょっと〜〜』
茜の声がしたのは聞こえたが、僕は聞こえないフリをした

 

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