〜a racket〜
部屋に戻ると留守番電話のメッセージを知らせる
ボタンが点滅していた
ボタンを押すと機械はテープを巻き戻す音を立てて
そして、再生を始めた。妙に懐かしい声が部屋に響いた『恒輝、生きてるかぁ?
今年の正月は同窓会しようとおもってるんだけどなぁ…』同窓会…
テープの声は中学時代の同級生のコウジの声だった
彼はこの僕とは違って一流と呼ばれる大学に入り
そして、今は何処かの学校で教師をやっている
何処かの学校で…
名前は聞いたが、そんなどうでもいいことなど覚えていなかった『…だから、もし正月帰ってこれるなら、一度連絡くれよ。じゃあな』
そこで、メッセージは止まった
それと同時に、茜が部屋へ押しかけてきた
『ちょっとぉ、さっきの言い方、何よ?』
顔を真っ赤にさせて茜は僕に怒鳴った『別にお前が怒鳴る事じゃないだろう』
僕は努めて冷静に言った
『恒輝だって、金澤くんに期待してたじゃない。
それなのに、あんな言い方ないよ』
『期待?期待なんかしてねぇよ。ただ逃げるとも思ってなかったけど』
僕はあえて茜の方に背を向けて、棚にある小物を触りながら言った茜は小さな溜息だけついて、その場に座り込んだ
『なんか飲むか?』
そう言って僕は茜に冷蔵庫からジュースを出して手渡した
茜は何も言わず受け取り、一口グイッと飲んだしばらくの間、二人は顔も合わせず沈黙だけが空気に混じった
今なら、昔部屋に置いていた『砂時計の声』が聞こえるのかもしれない
昔の恋人が、和歌山県の南紀白浜に行った時に自分で作った、と言ってた
白い砂で作られた少し不細工なその砂時計は
何度か静かな時を刻んでいてくれてた
しかし、そう何度も楽しまないうちに
その恋人と別れる時にそっと部屋から外へ流したどれだけの時間が流れたか、二人には分からなかったが
ふとした瞬間に茜が小さく口を開いた『ねぇ、恒輝って九州にいる時テニスやってたんだよね?』
僕はふと茜に視線を移すと、茜は僕の方じゃなくて
部屋においてあった、古びれたテニスラケットを見ていた
茜と付き合い始めた頃に一度か二度くらいだっただろうか
学生時代に九州の大会で優勝した事などを話した事があった
『あぁ、まだ学生だった頃な…』
僕はその事をほんの少しだけ思い出しながら呟いた
『最近、テニスやってないの?』
『なんで?』
『ラケット、ほこりかぶってるみたいだから…』
『忙しくて、テニスどころじゃないよ』
僕は嘘をついた
忙しいと言うほど忙しいわけではなかった
それはたぶん、茜にも分かっている事だと思いながら…
それでも、僕は嘘をついた…
みえみえの嘘を…
『そう・・・』
彼女はそう呟いたきり、また口を閉ざした
置いてあったラケットが物静かな空間に
何かを主張して映っているような、そんな気がしていた
茜は口をつむんだままだった